RAGにおけるリスクとは何か?対策も交えて解説

目次

  1. RAGとは
  2. RAGのアーキテクチャと処理フロー
    • 関連情報検索フェーズ
    • テキスト生成フェーズ
  3. RAGにおけるリスク
    • セキュリティリスク
    • 正確性のリスク
  4. RAGにおけるリスク対応方法
    • セキュリティリスクへの対応
    • 正確性のリスクへの対応
  5. まとめ

1. RAGとは

RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、生成AI技術の一つで、情報検索とテキスト生成を組み合わせることで、より高度で正確な回答を生成することを目指した技術です。具体的な利用機会は以下のような時かと思います。

  • ファンデーションモデルが学習していない期間の情報を補完する: ファンデーションモデル(GPT4-oなど)は学習しているデータの期間が限られています。したがって、タイムリーな情報は学習していないため、データを補完する必要があります。
  • クローズドな情報を追加したいケース: 機密情報はもちろんのこと、ブラウザに公開されていないクローズドな情報はファンデーションモデルは未学習です。したがって、そのようなクローズドな情報を参考情報として与えたいケースでRAGを利用します。

2. RAGのアーキテクチャと処理フロー

RAGのアーキテクチャは主に以下の2つのフェーズで構成されています。

2-1. 関連情報検索フェーズ

このフェーズは、RAGの中核ともいえるプロセスであり、リトリーバルモデルが重要な役割を果たします。リトリーバルモデルは、ユーザーからのクエリを受け取った後、外部データベースや検索エンジンに対してクエリを送信し、関連性の高い情報を取得しますここで使用されるのは主にベクトル検索技術で、クエリとナレッジベースとの類似性を計算します。

リトリーバルモデルの役割:

  • クエリ処理: リトリーバルモデルは、クエリの内容を理解し、ナレッジベースに対して検索を行います。ここでの検索精度がRAG全体のパフォーマンスに大きく影響します。
  • 情報のフィルタリング: 取得された情報の中から、最も関連性の高い情報を選別し、生成モデルに提供します。このフィルタリングプロセスは、ノイズや不適切な情報が生成プロセスに影響を与えるのを防ぐために不可欠です。

2-2. テキスト生成フェーズ

取得された情報はクエリと共に生成モデル(例:GPT-3や他のLLM)に入力(以下、json形式のコードを参照)され、それに基づいてテキストが生成されます。

テキスト生成のプロセス:

  • コンテキストの理解: 生成モデルは、リトリーバルモデルから提供された情報を文脈に沿って整理し、ユーザーのクエリに対応する内容を生成します。参考情報として、リトリーバルモデルが取得した関連情報とクエリを生成モデルにどのような形式で渡すかを記しておきます。queryにはユーザが入力したプロンプトであり、retrieved_informationがリトリーバルモデルから提供された情報であることを示しています。
{
    "query": "最新のプライバシーポリシーの内容は?",
    "retrieved_information": "2024年8月にプライバシーポリシーを更新し、データ保持期間を無制限とする方針を導入した。"
}
  • 応答の生成: 生成された応答は、リトリーバルモデルから得た情報と一致しつつ、文脈に適した形で出力されます。この段階で、モデルのトレーニングデータや事前に学習した知識が活用されます。
{
    "response": "最新のプライバシーポリシーでは、2024年8月にデータ保持期間を無制限とする新しい方針が導入されました。"
}

3. RAGにおけるリスク

RAGは強力な技術ですが、その特性からさまざまなリスクが伴います。以下に、RAGに特有のリスクをいくつか挙げて説明します。

3-1. セキュリティリスク

攻撃手法

  • 1. プロンプトインジェクション(Prompt Injection): 攻撃者が意図的に悪意のあるクエリをRAGシステムに入力し、生成モデルが誤った情報を生成するように誘導する攻撃です。この攻撃により、モデルが期待しない挙動を示すようになることがあります。
  • 2. 脱獄(Jailbreak)攻撃: RAGに組み込まれた制限やフィルタリング機構を回避し、モデルが本来生成しないはずの出力を引き出す攻撃です。攻撃者は、特定のプロンプトや入力方法を使用して、モデルが意図しない出力を生成するように誘導します。
Jailbreak_abstract

Jailbreakの概念図

攻撃によって起こり得る損害

  • 1. 誤情報の生成: プロンプトインジェクションや脱獄攻撃により、RAGが誤った情報を生成するリスクが生じます。これは、ユーザーに誤解を与えたり、信頼を損なう原因となります。
  • 2. 不適切なコンテンツの生成: 脱獄攻撃によって、モデルが本来生成すべきでない不適切なコンテンツ(例えば、差別的、暴力的、または誤解を招く情報)を生成するリスクがあります。これにより、企業の評判が著しく損なわれる可能性があります。
  • 3.情報漏洩: Prompt InjectionやJailbreakによって開発者が防御策として事前に組み込んでいる指示を解除することで、機密情報が漏洩するリスクがあります。特に、外部のユーザーに公開しているシステムで、ナレッジベースに機密情報を含む場合は要注意です。

3-2. 正確性のリスク

  • 1. Factual Consistency(リトリーバルモデルがナレッジベースから取得した情報とLLM出力の一貫性): リトリーバルモデルが外部から取得した情報と生成したテキストが一致していない場合、誤った情報が提供されるリスクがあります。これは、ユーザーに誤解を与え、システム全体の信頼性を損なう可能性があります。このリスクを回避するためには、リトリーバルモデルがナレッジベースから取得した情報とモデル出力の整合性をチェックし、データの品質管理を徹底する必要があります。
  • 2. Toxicity(有害性): RAGが生成するテキストに有害なコンテンツが含まれると、企業の評判を損なうだけでなく、法的な問題を引き起こす可能性があります。特に、人種差別的、性的、暴力的な内容は重大なリスクとなります。これを防ぐためには、生成されたコンテンツを事前にフィルタリングするシステムを導入し、Toxicityの検出と除去を徹底することが求められます。
  • 3. Answer Relevance(クエリとLLM出力の一貫性): ユーザーの質問に対して、生成される回答が不適切または無関係である場合、ユーザーエクスペリエンスが大幅に低下します。これにより、システムの利用価値が減少し、ユーザーの信頼を失うリスクがあります。Answer Relevanceを確保するためには、モデルのトレーニングデータの選定や、出力内容の精査が重要です。
  • 4. ナレッジベースが不正確: ナレッジベースが不正確である場合は、ユーザーに誤情報を提供してしまうリスクがあります。

4. RAGにおけるリスク対応方法

RAGに伴うリスクを軽減するための具体的な対策について解説します。

4-1. セキュリティ攻撃への対応

  • プロンプトインジェクション対策: 入力データのフィルタリングとサニタイズを徹底し、悪意のあるクエリを除去することで、プロンプトインジェクションのリスクを軽減します。また、モデルのトレーニングデータにも注力し、攻撃に対する耐性を高めます。
  • Jailbreak攻撃への対策: モデルの制約やフィルタリング機構を強化し、攻撃者がJailbreakを試みるリスクを最小限に抑えます。また、Jailbreakが成功されてしまった場合の対応として、出力側のフィルタリングを導入することも重要です。入力と出力の両方を監視することでリスクを最小限にすることができます。
Jailbreaks

Jailbreak(脱獄)の攻撃手法やそれに対応するリスク対策について、こちらの記事で解説しているので、併せてご覧ください。

4-2. 正確性と信頼性リスクへの対応

  • Factual Consistencyの確保: RAGが取得する外部データと生成されたテキストの整合性を確認するため、出力の検証プロセスを導入します。これにより、誤った情報が提供されるリスクを軽減します。また、外部データベースの信頼性を評価し、定期的にデータソースの監査を行います。
  • Toxicityの管理: 生成されたテキストを分析し、有害な表現が含まれていないかを確認します。有害なコンテンツが検出された場合は、直ちにフィルタリングまたは削除を行います。これを実施するには、Toxicityの評価基準を明確に設定していることも重要なので、なんとなくで閾値を設定しないようにしましょう。
  • Answer Relevanceの改善: ユーザーの質問に対して、適切な回答が生成されるよう、モデルのトレーニングを強化し、リファインメントプロセスを導入します。これにより、回答の関連性を高め、ユーザーエクスペリエンスを向上させます。また、生成された回答の適合性を評価するためのフィードバックループを構築し、継続的な改善を図ります。
  • 4. ナレッジベースが不正確: 定期的な情報の更新や、情報の正確性を検証することが重要です。

5. まとめ

RAGは非常に強力な技術であり、適切に活用すれば多大な価値を生み出すことができます。しかし、そのリスクを軽視することはできません。セキュリティリスクに対する強固な対策を講じることはもちろん、正確性や信頼性の観点からもリスク管理が必要です。これらのリスクに対する適切な対応策を講じることで、RAGを安全かつ効果的に運用することが可能になります。

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